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不透明な男

第11章 背徳


家に着いたのは明け方だった。

あの後風呂に入り、温まった俺は、松兄ぃの体温に包まれ眠りに堕ちた。

短時間しか眠ってないにも関わらず、俺は早くにスッキリと目覚めた。

その、心地よい眠りを与えてくれた事に感謝しながら、眠る松兄ぃをベッドに残して俺は家を出た。



そして今、俺のマンションの前で背中に視線を感じている。


この視線は翔だ。
いつから居たんだろうか。


松兄ぃに会うと言った時から翔の様子はおかしかった。
翔がここに居るかもしれない事も予想がついていた。

だからわざわざこんな時間に帰って来たというのに、まだ翔はいた。



もう、いいか…



今、声を掛けたところで仕方ないなと、俺に視線を送る翔に気付かない振りをして俺はマンションに入った。

それに少し怖かった。

俺に突き刺さる視線は、少しゾッとする様な、ヘンな冷たさを感じた。


智「ふぅ…、もう少し寝とくかな」


スウェットに着替えようと俺は服を脱いだ。
その身体には、松兄ぃの残した情事の痕が付いていた。


智「あ…、もう。またかよ」


まあ薄いし、2~3日もすれば消えるだろうとあまり気にせずに服を着ようとスウェットに手を伸ばす。

その時、玄関のドアの除き穴が気になった。


智「ん…?」


まさか翔か?
いやそんな筈は無い。
勝手に部屋まで来れない様にわざわざオートロック付のマンションにしたんだ。

そうは思っても、何故か妙にドアが気になった。


智「おかしくなっちゃったのかな…」


被害妄想が過ぎるだけかなと、俺はドアに背を向けてスウェットを着込む。

ベッドに入っても、外が気になって眠れない。


智「あーー、もう!」


むくっとベッドから起き上がると、俺は一目散に玄関に向かった。


智「誰だよ、誰かいんのかよ!」


怒鳴りながらガチャッとドアを開ける。


智「あれ…」


周りをきょろきょろと見渡してみてもそこには誰も居なかった。


智「やっぱ気のせいか…」


こんなんじゃそのうちノイローゼになっちゃうなと、俺は溜め息を吐いた。

アイツは関係無いんだから後回しでいいかと思っていたが、今ノイローゼになるのはマズい。

優先順位を変える必要がある。



まずは翔からだな…

お前の目的、俺に晒しやがれ




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