
不透明な男
第11章 背徳
兄「智、くるし…」
智「ん、ん…っ、ぷはっ、はっ」
兄「無茶しすぎだ。やっぱりお前おかしいぞ…」
やっぱり無理か。
まあ、当たり前の事だ。
苦しくなると、唇を離して空気を欲しがる。
キスなんかで死ねる訳無いんだ。
智「はぁ、はっ、松兄ぃ、早く…」
兄「どうしんだよ、一体何があった…」
智「何も、無いよ…、それより早く…」
そんな事を思いながらでも俺の中心は疼く。
死ねないなら早く堕として欲しかった。
次から次へと溢れ出る涙を、枯らして欲しいんだ。
智「んっ、んぅ…っ」
溢れる涙を唇で受け止めながら松兄ぃは俺を揺さぶる。
俺の涙は枯れるどころか益々出てきてしまう。
智「あ…、あっ、ま、松兄ぃ…っ」
兄「いいよ…、もっと泣け。全部貰ってやるから」
だからそんな事言っちゃ駄目だろってば。
俺は弱いんだよ。
止まんないだろうが。
智「んん…っ、はっ、あ、あっ」
兄「全部吐き出せ…っ」
智「あ、あっ、あぁ…っ」
俺は大きく震えると、涙と共に俺の中に燻る熱を吐き出した。
松兄ぃはそれを、大きな手で受け止めてくれた。
兄「智…、もう、おかしな事言うんじゃない」
智「うん…、ごめん…」
俺は弱い。
強くならなきゃいけないんだ。
まだ思い出しただけだ。
何も進んでいない。
兄「死にたいなんて、思わないでくれ」
智「ふふ、ごめんって」
そうだ、まだ死ねない。
智「さっきのはそういう意味じゃ無いよ」
兄「じゃあ何だ」
智「知らないヤツの車に跳ねられて死ぬのとか嫌じゃんか。どうせ死ぬなら松兄ぃがいいなって」
兄「何だそれ」
智「でも、やっぱやめとくよ。松兄ぃが殺人犯になっちゃうからね(笑)」
兄「じゃあ、死なないんだな?」
智「当たり前でしょ」
まだやらなきゃならない事があるんだ。
智「それにおれ、親、捜すんだ」
兄「親?」
智「うん、何処に行っちゃったか分かんなくて」
なんでだろうな。誰にも言えなかった事を、松兄ぃには言えるんだ。
兄「行方不明なのか?」
智「そうなんだよね」
今、何処でどうしてるか分からない。
でもそれを知ってる人物がいる。
俺は、そいつに聞かなきゃならないんだ。
それまでは、俺は死んじゃいけない。
