
不透明な男
第11章 背徳
兄「どうしたら楽になれる?どうしたら、お前を救ってやれるんだ…?」
ああ、松兄ぃも俺の心配をするんだった。
俺は心配なんてさせちゃいけないのに。
智「ふふ、どうしたの?ヘンな夢見ただけなのに」
兄「智…」
智「心配しすぎなんだよ」
クスッと笑うと俺は松兄ぃから手を離した。
智「ご飯、作ってくれたんでしょ?食べよ。お腹すいた」
兄「ああ、そうだな…」
俺が泣き言を言うと心配するだろうし、かといってこうやってはぐらかしても心配をする。
全く困ったもんだな。
智「ねえ松兄ぃ」
兄「ん?」
智「顔、ヘン」
兄「あ?」
あ、怖い顔した。
智「こわっ」
兄「はぁ?怖くなんか無いだろうが」
智「怖いよ。まるで極道だよ(笑)」
兄「どこがだ」
俺が笑うと松兄ぃも笑った。
その事に少しほっとして、くだらない話をしながら晩酌へと突入した。
その時、片付いたテーブルに紙袋を置かれた。
兄「これ、お前のポケットからはみ出てたんだが」
智「あ…、ありがと」
チラッと松兄ぃを見ると、松兄ぃは溜め息をついていた。
兄「それ、何の薬だ」
智「ただの風邪薬だよ」
もう一度チラッと目を向けると、今度は俺をじっと見ていた。
智「なんだよ…、怖いよ。も~」
兄「どうして嘘を付くんだ」
智「別に嘘なんて…」
兄「ついてるだろ」
この松兄ぃの迫力に耐えられる奴がいるなら見てみたい。
なんでこんな怖いんだ。
智「けほ、けほっ、あ、風邪移しちゃうといけないからそろそろ…」
兄「こら待て」
立ち上がった俺の腕をガシッと掴まれる。
これはヤバい。
マジで怒ってるかもしれないなと、酒の入った松兄ぃを見た。
智「…目が据わってるんですけども」
兄「それがどうした」
智「ひょっとして、怒ってる…?」
兄「当たり前だ」
マズイな。
こうなったら長い。
俺が正直に話すまで絶対許してくれないんだ。
酔い潰すか…
智「わかったよ…」
もう一度座り直すと、ささ、どうぞと松兄ぃに酒を注いだ。
