
不透明な男
第11章 背徳
松兄ぃの腕の中で大人しくなってしまった俺は、その温もりに誘われるように目を閉じた。
兄「寝ていいぞ」
智「あ、いや…」
ぱちっと目を開けた俺を松兄ぃは見つめる。
兄「ほら、目、閉じろ。どうせ寝れてないんだろ?ガキなんだから…」
智「一人で寝れない子供と一緒にしないでよ」
兄「同じだろう」
智「違うし…」
だったらこの隈は何なんだと目の下を突つかれ、俺は仕方なく目を閉じた。
松兄ぃの胸に頬を預け、身体をぴたっとくっ付ける。
後頭部を優しく撫で付けられると、俺の瞼は自然と重くなった。
智「ん…、寝ちゃうかも…」
兄「こうしててやるから、ちゃんと寝ろ」
智「んじゃお言葉に甘えて…」
全くこの胸は暖かい。
頬に伝わる松兄ぃの心音が、俺の脳を優しく包む。
只、この心地よさに身を預けてふわふわと眠りに落ちたかった。
だけど、その心地よさに反して俺の中に罪悪感が沸き上がってくる。
俺は優しくされる様な人間じゃない。
そんな資格なんて無いんだ。
8年前、俺は周りを不幸にした。
そんな俺が、なんの制裁も受けずに未だに呑気に生きている。
それだけで俺は罪悪感でいっぱいだった。
事もあろうか不都合な記憶だけ綺麗に忘れ去って、俺は生きようとしていた。
そんなバカな話があるか。
俺は狡い。
いや、ずるいなんて言葉では片付けられない。
誰かおれに制裁を下して
でなきゃ、おれは生きられない
生きる資格なんて、持ち合わせていないんだ
