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不透明な男

第11章 背徳


その黒い瞳は俺をただ真っ直ぐに見つめてくる。
そんな翔に気圧されて、俺は飲み込まれそうだった。



プルル…


翔「あ…、どうぞ」


俺の携帯が鳴る。
この空気を遮ってくれた呼び出しにほっとしながら翔に言われるままに携帯を取り出す。

発信者を確認すると、翔にチラッと目をやり背を向けた。


智「もしもし…、松兄ぃ?」


一瞬空気が固まった気がした。


智「うん、うん…。え、でもそれは…」


翔が見ている。


智「駄目だよそんなの…」


どんな顔をしているのかは分からない。
だけど。


智「ふふっ…、ほんと松兄ぃには敵わないよ…」


クスクス笑う俺の背筋が凍る。


智「…わかったよ。うん、行くから」


振り向くのが怖いとさえ感じた。


智「うん、じゃ、あとでね」


電話を切った俺は、振り向く前に翔に声を投げ掛けられた。


翔「松岡さんですか?」

智「あ、うん」

翔「これから、松岡さんの所へ…?」


やっと振り向いた俺は、俯いた顔を上げ翔を見ようとした。
だけど、俯いた俺の目のすぐ真下に翔の足が見えた。

こんなに近くに居た事に驚いて、俺は思わずビクッと震える。


翔「どうしたんですか?震えてる…」

智「あ、いや…」


顔を上げ翔の顔を見たものの、目を合わす事が出来ず、すぐに目を逸らした。


翔「大野さん」

智「あ、じゃ、そろそろ行くから」


俺の逸らした顔を、翔の手が掴む。
グイッと翔の方に顔を向けさせられたが、尚も俺は目を合わせなかった。


翔「どうして震えるんですか」

智「震えてないよ」

翔「震えてますよ。貴方は、脅えてる…」


震えてなんかない、俺は何も怖がっていないと知らせる為に、俺は翔と目を合わせた。


翔「貴方に、何がおきてるんですか…?」


俺はピクッと眉が動いた筈だ。
怖い顔をしているのだろうと覚悟をして目を合わせた俺は、少し動揺を見せてしまったかもしれない。


翔「何を怖がってるんです?」


今、俺に恐怖を与えているのは翔だ。


翔「僕がいますから、怖がらないで…」




翔の開いた瞳孔は、まるでブラックホールの様に見えた。

その黒い渦に吸い込まれてしまいそうで、俺は、翔に恐怖を覚えたんだ。




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