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不透明な男

第11章 背徳


テーブルに置いてあった紙袋が倒れた。

俺の肘が当たって倒れた紙袋からは、カサッと小さな音を立てて真新しい薬が覗いた。


智「あ…」

翔「薬、ですか…?」


ああ、まあねと言葉を濁しながら倒れた紙袋を整える。


翔「うちの薬じゃ無いみたいですけど」

智「あ~うん」


ちょこんとテーブルに佇む紙袋を翔が見つめる。

その、一見薬が入っている様には見えないただの紙袋に翔の手が延びそうで、俺は背中と椅子の背凭れの間にそれを押し込んだ。


翔「今のって、睡眠薬ですよね?」


ちらっと薬の角が覗いただけなのに、翔はしっかり見ていた。
その観察力にゾクッとする。


智「あ、そうなの?」

翔「知らなかったんですか…?」


翔は少し、不信そうな顔をした。


智「近所のおばちゃんに頼まれてね。薬局に貰いに行っただけなんだよ」

翔「あ、そうだったんですか…」


納得した様な言葉を言うものの、翔の表情にはまだ少し疑いが残っている感じがした。


翔「最近どうですか?寝れてます…?」


俺の目をじっと覗き込む。
あまりに真っ直ぐ見つめてくるから、思わず目を逸らしそうになった。


智「やだな翔くん。おれのじゃないよ?」

翔「ですけど、なんだか少し痩せた感じがして」


不振そうな顔を見せたと思ったら、今度は心配そうな顔になる。
いつもの、心配した時に見せる顔と全く同じだった。


智「……なに?」

翔「あ、いえ」


翔の視線が一点に留まる。
俺の手首をチラチラ見ていた視線が、はっきりと手首に留まった。


智「…なに想像してんだよ。翔くんのえっち」

翔「はっ」

智「おれの手首見ながらぼーっとしてたよ?」


何故そこで赤くなる。図星なのか?


智「おれを虐めたいの?」

翔「えっ!?」

智「だってさ、痕、探してたんでしょ…?」


翔の目がさまよった。


智「今度は夢の中でおれを虐めた?」

翔「そ、そんな事」


あんなの嘘なんだからSMなんて信じるんじゃないよと、俺はクスクスと笑った。


智「ヘンな想像しないでよね」

翔「しっ、してませんっ」


いつもなら分かりやすいんだ。

すぐに真っ赤になるし、挙動不審になる。

だけど、今となってはその翔の反応すら意味が分からない。



早く本性を現せよ…





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