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不透明な男

第11章 背徳


検診の終わった俺は、出口に向かって歩いていた。

この間、翔の本性を見抜いてやるぞと意気揚々だった俺も、今の状況では少しの覇気すら出なかった。

肩を落とし、ふらふらと院内を歩く。



「あっ、大野さん!お久し振りです♪」


捕まった。
チッと思わず心で舌打ちをした。


智「ああ、お久し振りです」


なんとか笑顔を絞り出す。


「この間の医師、処分が決まって良かったですね」

智「あ、知ってるんですか?…恥ずかしいな」

「ふふっ、大野さんが無事で良かったです♪」


何やら急に看護師のテンションが上がった。


「それにしても、凄かったんですよ?」

智「何がです?」

「櫻井先生ですよ!あんなに怖い顔初めて見ましたもん」

智「…え?」

「なんだか雰囲気が、こう…。うーん、とにかく、いつもの櫻井先生とは全く違う人みたいで」


俺とランチをしていた時の翔は、心配こそしていたが普通に見えた。
怒り出したのは、俺が涙目だったと婦長に聞いてからだと言う。

減給処分くらいにしかならないだろうと思われていた所を、翔があの医者の色々な悪事を報告したんだと、看護師は言った。


「誤魔化されない様に、きちんと証拠まで持ってくるあたりが、さすがですよねぇ」

智「そんな事を…?」


知らなかったんですか?あの処分は櫻井先生のお陰ですよ、会ったらお礼を言った方がいいんじゃないですか?と、看護師は鼻息を荒くしながら伝えた。



翔がおれの為に…?

何故だ?

翔は、何を考えてる?



ずっと俺を騙していた翔が、なんの為にこんな事をしたのか、俺にはさっぱり分からなかった。

その行為の裏には、どんな思惑が潜んでいるのか。



おれを油断させようとしてるのか…?

それは、一体何の為に…




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