テキストサイズ

不透明な男

第11章 背徳


ペチペチと俺の頬を叩く。

ひんやりとした感触が俺の額を包んだ。


智「ん……」

A「気付いたか?」

B「全く、なんなんだ今日は…」


もう少しで水をぶっかける所だったと、Bは少しおどけた。


智「水は、勘弁して下さいよ…」

B「ヒヤヒヤさせやがって…」


どれくらい眠っていたんだろう。
窓の外はすっかり暗くなっていた。


智「まさか、ずっとここに?」

A「心配するな、ちゃんと交代で働いてきた」

B「もう今日は終わりだ。動けるか?」


俺を抱き起こすと、ふぅっと息を吐き、眉を寄せて俺の顔を見る。


B「青白い顔しやがって…。ちゃんと飯食わねえからそんな事になるんだよ」

A「今日はちゃんと食え。これは命令だ」


有無を言わさず俺は連れ出された。
無理はさせない、飯を食うだけだと、Bのマンションに連れて行かれた。


智「え、作れるんですか」

A「こいつの鍋は絶品だぞ。力がみなぎるんだ」

B「すぐ作ってやるから、ちょっと待ってな」


Bはそう言うと、ジャケットをポイッと投げ捨てエプロンを纏った。


俺はソファーの下に座って大人しく待つ。
その隣に座ったAは、まじまじと俺の顔を見つめる。


A「なあ、お前……」

智「何ですか…?」

A「…や、いや、いい。そんな訳無いよな…」


何かを言いかけて言葉を飲む。
それは料理が出来上がるまで、幾度と繰り返された。


B「よし、出来たぞ」


ほら、こっちに、とテーブルへ促される。


A「ほら、旨いから食え」

B「しっかり食べないと帰さねえぞ」

智「い、いただきます…」


ほら食え、早く食えと薦めてくるだけあって、この鍋は確かに旨かった。

冷えた身体が少し暖まった様にすら感じた。




だけど、俺の心臓は罪悪感で押し潰されそうだった。

あの青年と、俺の両親。

俺がいなければ、あんな事にはならなかったんだ。




ストーリーメニュー

TOPTOPへ