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不透明な男

第8章 序章


智「よいしょ…っと、ふぅ…」


ドサッと松兄ぃをソファーに落とす。
その衝撃で松兄ぃが目を開けた。


兄「お前…、俺になんちゅー扱いをするんだ」


あはは、ごめんごめんと、松兄ぃの前に水の入ったグラスを置く。


智「お水飲んだら?薬もあるよ」

兄「悪いな…」

智「ふふ…、さっき可愛かったのに。もう覚めちゃったの?」

兄「タクシーでちょっと寝たからな、随分マシだ」

智「戻るの早いよ(笑)」


そう言って俺は、薬を取ろうと立ち上がる。
その腕を、松兄ぃに掴まれグイッとソファーに引き込まれた。

ソファーに押し倒された形になった俺に、松兄ぃがのし掛かり聞いてくる。


兄「明日、出て行くのか?」

智「うん、早い方がいいと思って…」

兄「何で…?」

智「だって松兄ぃ、我慢してるでしょ?」

兄「我慢?」


俺は、ふふっと笑うと、松兄ぃの瞳の奥を覗く様に見つめながら言う。


智「一緒のベッドで寝てるのに…、手、出せなくて辛いでしょ…?」

兄「…っ」

智「我慢してくれてる事くらい、おれだって分かるよ」

兄「智…」


松兄ぃが泣くんじゃないかと思った。
それ程、松兄ぃの顔は一瞬だけだけど、辛そうに歪んだ。


智「なのにおれは、都合のいい時だけ甘えて…」

兄「そんなの気にするな…」

智「ほんと、損するよ?その性格(笑)」


なんでそんなに優しいんだ、自分が苦しいだけだろうと、俺の胸は痛くなった。


智「ごめんね、松兄ぃ…。ありがと…」




松兄ぃの辛さが伝わってきて、俺の瞳は潤んだ。







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