
不透明な男
第8章 序章
視線が俺に着いてくる。
翔「智くん…!」
智「ん…?あ、翔くん♪」
まるで今気付いたと言わんばかりに笑顔を向けた。
智「偶然だねえ。こんなとこで何してんの?」
翔「さっき…何やってたの?」
智「…あれ?翔くんお酒入ってる?タメ語になってる(笑)」
真顔で見てくる翔に、俺は呑気に笑いかける。
翔「送別会だったんだよ…」
智「あ、翔くんも行ってたんだ。さっき看護士さんに話しかけられたよ」
俺と翔は相対的な表情で会話をする。
翔「その看護士と、何してたの…?」
智「え?何って…」
途端翔に腕を掴まれた。
翔の瞳には怒りが滲んでいる気がした。
智「え…どうしたの…」
翔「何であんな事…?」
翔は悲しそうな顔をする。
俺は近付いた翔の首に腕を回し、その悲しそうな、怒っている様な瞳をじっと見つめる。
翔はひるまない。
だから俺は、翔の唇に吸い付いた。
翔「…!」
智「ん…」
片腕を翔の首に回し、もう片方は翔の後頭部を支える。
少し伸びをした俺は、顔を傾けて翔の唇を食す。
智「翔くん…口紅の味がするよ…?」
顔を近付けたまま、翔を覗き込んでやる。
翔「…っ」
そっと翔から離れると、帰るねと後ろを向いた。
翔「っ、さ、智くん!」
智「二次会あるんでしょ?皆待ってるよ?」
じゃあねと後ろ手に手を振ると、翔の顔を見ずに歩き出した。
翔がどんな顔をしていたのか見ておけば良かったな、と思いながら俺は去った。
