
不透明な男
第8章 序章
色んな引き出しを漁り、頭痛薬を見つけてそれを飲む。
壁に掛かった時計は止まる事なく動いていた。
もう21時か…
そろそろ帰らないと…
俺は松兄ぃより先に帰ろうとマンションに向かった。
「大野さん!」
智「あ…、お久し振りです」
後ろから肩を叩いて来たのは、翔の病院の看護士だった。
俺はいつもの如くふんわりと微笑んで挨拶をする。
「検診に来た時位、病棟に寄って下さいよ~。皆待ってるんですから♪」
智「あ、うっかりしてました」
「もお~意地悪ですねっ」
後ろからもうひとりやって来た。
「あっ、先輩!こっちこっち!大野さん居ますよ~!」
「本当!智くんじゃないのおっ」
智「ふふ、酔ってますね?」
「たまにはね~」
智「女子会ですか?」
「今日は、寿退社する子の送別会なんですぅ♪」
「ほら、あっち~」
あっちと言われた方に目をやると、そこには女性達に絡みつかれる翔がいた。
「あ~あ、また櫻井君捕まってる(笑)」
智「また?」
「さっきも濃厚なキスしてたしねえ」
「あーほら、また(笑)」
智「え…」
翔がキスをしていた。
それはそれは可愛らしい女性と。
絡まれているというより、俺には翔が楽しんでいる様に見えた。
翔が女性とキスをする。
そんなの当たり前の事なのに、俺は…
胸がざわついた。
