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不透明な男

第8章 序章


俺は慌ててその部屋を飛び出すと、テーブルに置いた封筒を手に取った。
震える手でビリビリと破り開封する。


中に入っていたのは1枚の写真と名刺、それとメモ。


写真には中年の男がひとり写っているだけだ。
俺はその写真をじっと見つめる。



この男… この男、誰だ…



ズキズキと頭が痛んでくる。

何か引っ掛かるのに思い出せない。
他に何か手懸かりは無いのかとメモを見る。

そこには箇条書きで文が書かれていた。



・病に倒れ、入院中の母親がいる。

・父親は他界している。

・入院費用を稼ぐ為に雇われている。

・フル稼働は無理。

・勤務中は私語厳禁。それがルール。

・行く時はとにかく気を付けろ。

・絶対にバレるな。




…ん?

なにこれ。仕事内容?



俺はバカか、せっかく残すならもっとちゃんと書けよと自分に溜め息を吐いた。

一体何の役に立つんだこのメモと、飽きれながら名刺に手を伸ばす。



あれ?この名刺…

どっかで見なかったか?



ハッと俺は目を見開き、一目散にクローゼットに向かう。
クローゼットの隅に置かれた小さな箱を手に取ると、リビングに戻った。

箱を開けようとすると、何故か俺の心臓はバクバクと騒ぐ。
先程から震えていた指先は、より一層震える。

俺はゆっくりと深呼吸をすると、そっと蓋を開けた。



中に入っている沢山の名刺は、この封筒から出てきたものと全く同じだった。




代表取締役社長警護係

成瀬 領




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