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不透明な男

第8章 序章


急に心臓がぞわっとした。


智「…っ」

東「…大野?」


俺の記憶。それは一体どんなものなのか。


智「く…っ、は、はっ」

東「大野?どうした、落ち着け」


胸が苦しい。息が出来ない。


智「う…」

東「大野!」


だめだ。頭が割れる様に痛んで、考える事も出来なくなる。


東「無理に思い出さなくていい。とにかく、今は落ち着け」


そう言うと俺の口元に紙袋を当てる。


智「…はぁ、は…ぁ…」

東「顔が酷いぞ。少し休め」


東山先生は注射器を取り出す。
それを俺の腕にぐっと押し当てた。


智「…っ、な、なにそれ…」

東「心配するな。鎮痛剤代わりの軽い麻酔だ。とにかく少し寝た方がいい」

智「あ…、そっか…。確か、前もやってもらったな…」


我が子を慈しむ様に頭を撫でるその手があまりに優しくて、俺は自然と目を閉じた。

麻酔によって、俺の意識は薄れていく。



そうだ…

おれはまた忘れたんだ…

確か…3年前の…

もう少しだと思ったあの時に……








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