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お嬢様と二人の執事

第3章 もう一人の執事

沙都子の目に涙が光っていた。

そのまま眠っている。

神山は驚いて、懐からハンカチを出して涙を拭った。

「沙都子様…?」

そっと頬に触れる。

火照った頬は、昨夜の情事を思い起こさせた。

こみ上げてくる愛おしさを、神山は押さえることができなかった。

「沙都子様…お慕いしております…」

そっと沙都子の身体を抱いた。

ぎゅっと力を入れると、沙都子の身体から芳香が漂う。

ボディソープでもクリームでもない…不思議な香りだった。

その香りを嗅ぐと、神山はそっとまた、沙都子をベッドに寝かせた。

色白の頬を薄桜色に染めている。

綺麗な二重の瞳は潤んで、沙都子を見下ろしている。

掌をぎゅっと握ると、神山は踵を返した。

黒い革靴の足音は、少し鈍い。




高宮の指定した時間が、刻一刻と近づいていた。

沙都子はベッドの上で、逃げ出したい思いに駆られていた。

だが、これも東堂の人間になる為に必要なことなのだとしたら、逃げ出す訳にはいかない。

沙都子は頑固な一面があって、こうと決めたらやり通すまで続ける癖がある。

今の沙都子には、逃げるという選択肢はなかった。

だが、怖いものは怖い。

昨夜あんなことになって、また傷つくのが怖かった。

孤独を感じるのが辛かった。

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