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お嬢様と二人の執事

第3章 もう一人の執事

医師の診察の結果は、軽い風邪ということで、一日ベッドで沙都子は過ごした。

貴子と優子がなにくれとなく世話をしてくれる。

時々、高宮がやってきては熱を確認して下がっていく。

うとうと眠っていると、昨夜のことを思い出した。

あんな熱い夜を過ごしたのは、初めてのことだったのに。

沙都子は滲んでくる涙を拭うと、枕に顔を埋めた。

「神山さん…」

誰も居ない室内で、神山の名前を呼んでみる。

しかし心が寒くなるだけだった。

「お母さん…お父さん…」

ぎゅっとシーツを掴むと、また涙が溢れてきた。

また、この世でたった一人であるということを痛感した。

心を許せると思った人は、自分を東堂の家に見合う女性にしようと必死なだけだったのだ。

ただそれだけで自分を抱いたのだ。

そして別の男にも、自分を抱くように言える…。

神山の思いなど、そんなものなのだ。

次から次へと溢れてくる涙は、枕に吸い込まれていった。

そのまま、沙都子は眠りに落ちていった。



「…沙都子様…?」

よく磨かれた黒の革靴。

神山が寝室に足を踏み入れた。

高宮から報告を受け、沙都子の様子を見に来たのだ。

そっとベッドに歩み寄ると、沙都子を覗き込む。

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