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素晴らしき世界

第39章 愛と浮気のチョコレートケーキ

「いてっ!」

その瞬間、頭に激痛が走った。

『いい加減にしろ!』

たぶん……松にぃに頭を叩かれた。


力加減ってものを本当、知らない。


『なにを勘違いしてるか知らねーけど、言葉だけを鵜呑みにして……自分の目で確かめてもしねーで人に八つ当たりしてんじゃねーぞ!』

松にぃのド正論に俺は叩かれた頭を押さえたまま、何も言い返すことが出来ない。

『子どもじゃねーんだから、ちゃんと自分で目で事実を確かめやがれ!』


俺が目で見た真実は、櫻井ってヤツに向けていたカズの笑顔。

そして松にぃたちの会話の内容を聞いて、俺は確信してしまった。


和也は櫻井ってヤツの所に行ってしまうかもしれないって。


『智は……どうしたいんだ?』

松にぃが優しく諭すように問いかけた。


なにもせず、俺は指を咥えたまま黙ってていいのか?


俺は……

俺は……





店を出て、駅まで全力疾走した。

停車していたタクシーに乗ると、今日訪問した会社の住所を伝えた。


くそっ!

ケーキ屋の名前、覚えておけばよかった。


タクシーを降りると、必死に店を探した。

昼間と違って明かりが少ない分、目に入る情報が少なくてなかなか見つけられない。


和也……どこにいる?

もうここには……いないのか?


カランカラン…


鈴の音が前の方から微かに聞こえた。


この音に、聞き覚えがあった。


あのケーキ屋から出てきた時と同じ音色。


俺は音の聞こえた方へと走った。


すると昼間に見たあの後ろ姿。


でも違うのは、離れていくんじゃなくて近づいて行く。


そして俺は愛しい人の腕を掴んだ。


『うわっ、えっ……智……さん?』

一瞬怯えた目をしたが、すぐに俺とわかってビックリした表情になる。

「帰るぞ」

『えっ?ちょっ……』

2人が歩いていた方向とは逆に、手を掴んだまま歩き出した。

『ニノ、ちょっと待って!これ……』

『あっ!』

振り返った和也が、掴んでいない方の手を櫻井に伸ばした。


させるかよ!


その瞬間、グッと掴んでいた腕を引っ張り
和也を引き寄せそのまま抱きしめた。


「和也は俺のもんだ」


櫻井に見せつけながら言い放って、再び和也の腕を引いて歩き出した。

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