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素晴らしき世界

第31章 向かい合わせ

だから俺は離婚届を突きつけた。

本当は離婚なんてしたくない。

でもそれしか方法が無かった。


だって『肩書き』を奪わない限り、
俺の事なんて考えてくれないと思った。



俺の『別れ』を賭けた勝負。



何で別れるなんて言うんだ?とか。

俺が何かした?とか。


ほんの……

ほんの些細なことでもいい。


『離婚』という行動に
疑問を持って欲しがった。


そして2人で過ごしたことを
思い返して考えてほしかった。


でも俺が感じたのは……

『何とか離婚を回避しよう』


それだけだった。

それだけしかなかった。


ぎこちない会話やあからさまなご機嫌とり。

その全てが俺に今まで何も
してくれなかったんだって教えてくれる。


全部……自分ばっかり。

そして俺ばっかりが好きだった。


ずっと一緒にいたいと思ったのに……

現実に向き合うことに耐えられず、
会うことを避けるようになった。


でも……

それでももしかしたらって思いも
捨てることができなかった。


一緒に過ごした長い年月と
渡してこない離婚届が
俺の諦めを悪くしまっていた。


でも……ついにあの日を迎えたんだ。


ずっと引き出しにあった離婚届。


その空欄部分が記入する姿。



勝負すらできなかった。



欲しい言葉は何一つ、
貰うことが出来なかった。

そう、思った瞬間……


『ごめん』

俺に対しての初めての謝罪。


抱きしめられた。

俺に対しての初めての行動。


『好き…だ』

俺に対しての初めての言葉。


たくさんの初めてをくれた。


全てはきっと……

俺の事を初めて考えてくれたという事。



俺は最後の賭けに勝った。



望みを叶えた。


そして自分だけではなかった
『好き』という想いに、
長い年月をかけてようやく辿りついた。



でもそれは大きな代償を払ったからこそ。



『最後』という別れの切り札を。

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