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素晴らしき世界

第31章 向かい合わせ

「で、どうなの?」

でも俺が話すきっかけを作ってくれるのは大野さんで
その優しさにいつも本音を吐き出してしまう。

「うーん……いい加減、
忘れなきゃって思うんですけどね」

「もうそれ聞き飽きたよ?」

頬杖をついて俺を冷めた目で見る。

「必死に自分に言い聞かせてるんです!」

「言い聞かせるんじゃなくて、
行動に移せばいいんじゃない?」

「行動に?」

「相葉くんだってモテるでしょ?
一回、告白された人と……ってそれは無理か」

大野さんはそれ以上、何も言わなかった。

もちろん付き合うキッカケは様々だし、
最初は好きじゃなくても段々、
好きになって行く事だってある。


でも俺は……そうじゃなかった。


俺の事が『恋愛対象』として
好きじゃないのはわかっていた。

けど、付き合ったっていう事実が嬉しかった。

それでも恋愛対象は女だから、
その満たされない欲を『浮気』で
解消していたのも知っていた。

でも俺はそれを追求したり、
責めたりすることは出来なかった。


だって俺は『男』だから……


そのハンデを補うには、
寛容な恋人であるしかなかった。


そんな中でもキスしたり、
身体を重ねるようになった。

それと同時に『浮気』も無くなっていった。

それがどんな理由であれ、
正式に『恋人』になったんだって思えた。

それでも女性からのアピールはあるし、
一緒に暮らすようになっても不安は尽きなかった。


だって『恋人』は他人。


だからプロポーズした。


『家族』『既婚者』


その言葉でようやく繋ぎ止められた。

そしてやっと俺だけを見てくれるって思った。


でも現実は違った。

どんどん2人の距離は離れていった。


俺の『家族』『既婚者』という重みと、
あの人の重みは違っていた。


所詮あの人にとって『既婚者』はただの肩書き。


いくら尽くしたって……

いくら我慢したって……


俺の事はこれっぽっちも考えてないんだって事が、
長い年月をかけてようやくわかったんだ。

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