
素晴らしき世界
第31章 向かい合わせ
のんびりと朝を過ごしてしまった俺は
慌ててスーツに着替えた。
「仕事は?」
「うん、今日は遅番なんだ」
雅紀も着替えてはいたけど、
ソファーに座っていた。
「ごめん、片付けまで全部任させて」
「いいよ。それより時間、大丈夫なの?」
雅紀が壁に掛けてある時計を指差した。
「やべっ、じゃあ……行ってきます!」
『行ってきます』と
自然に出た言葉に少しだけ嬉しくなった。
「うん、行ってらっしゃい」
そして自然と返ってきた雅紀の言葉も……
ダメダメだ。
心の中で浮かんだ都合のいい事をかき消した。
離婚する事は決まっている。
そして引っ越しが決まればここを出て行く事も。
でもそれまでの間、
もし雅紀が許してくれるなら……
こんな風に過ごしたいって思う。
なんて……都合が良すぎるよな。
「翔…っ」
エレベーターを待っていると、
玄関から飛び出してきた雅紀の姿。
「行ってらっしゃい!」
笑顔で大きく手を振る雅紀。
『どうしたの?』って聞きたかったけど、
エレベータがちょうど来てしまったので
サッと手だけを上げて乗り込んだ。
職場につくと潤はすでに出勤していて、
仕事を猛スピードでこなしていた。
和也さんとのやり取りは変わらずだけど
『明日、半休貰うからよろしく』という
言葉に潤に何らかの変化があったんだと察した。
上手くいくと……いいな。
心の底からそう思った。
自然と早くなる仕事のスピードに
自分が家に早く帰りたいんだって気付かされる。
帰ったら……雅紀と話をしよう。
「ただいま」
そう言ったら『お帰り』なんて言葉が
雅紀から返ってくるかもなんて期待してた。
でも返事はない。
いつもと同じ、真っ暗なリビング。
「まさ……」
パチッとの照明をつけると、
少し殺風景になったリビングを見て言葉を失った。
唯一増えていたのはテーブルに置いてある
俺と同じデザインの指輪と俺と同じ部屋の鍵。
そして一枚のメモ。
【離婚届、出しました。
今までありがとう。さようなら】
何よりも大きかった雅紀の存在がこの家から消え、
俺の元から去っていった。
慌ててスーツに着替えた。
「仕事は?」
「うん、今日は遅番なんだ」
雅紀も着替えてはいたけど、
ソファーに座っていた。
「ごめん、片付けまで全部任させて」
「いいよ。それより時間、大丈夫なの?」
雅紀が壁に掛けてある時計を指差した。
「やべっ、じゃあ……行ってきます!」
『行ってきます』と
自然に出た言葉に少しだけ嬉しくなった。
「うん、行ってらっしゃい」
そして自然と返ってきた雅紀の言葉も……
ダメダメだ。
心の中で浮かんだ都合のいい事をかき消した。
離婚する事は決まっている。
そして引っ越しが決まればここを出て行く事も。
でもそれまでの間、
もし雅紀が許してくれるなら……
こんな風に過ごしたいって思う。
なんて……都合が良すぎるよな。
「翔…っ」
エレベーターを待っていると、
玄関から飛び出してきた雅紀の姿。
「行ってらっしゃい!」
笑顔で大きく手を振る雅紀。
『どうしたの?』って聞きたかったけど、
エレベータがちょうど来てしまったので
サッと手だけを上げて乗り込んだ。
職場につくと潤はすでに出勤していて、
仕事を猛スピードでこなしていた。
和也さんとのやり取りは変わらずだけど
『明日、半休貰うからよろしく』という
言葉に潤に何らかの変化があったんだと察した。
上手くいくと……いいな。
心の底からそう思った。
自然と早くなる仕事のスピードに
自分が家に早く帰りたいんだって気付かされる。
帰ったら……雅紀と話をしよう。
「ただいま」
そう言ったら『お帰り』なんて言葉が
雅紀から返ってくるかもなんて期待してた。
でも返事はない。
いつもと同じ、真っ暗なリビング。
「まさ……」
パチッとの照明をつけると、
少し殺風景になったリビングを見て言葉を失った。
唯一増えていたのはテーブルに置いてある
俺と同じデザインの指輪と俺と同じ部屋の鍵。
そして一枚のメモ。
【離婚届、出しました。
今までありがとう。さようなら】
何よりも大きかった雅紀の存在がこの家から消え、
俺の元から去っていった。
