テキストサイズ

素晴らしき世界

第31章 向かい合わせ

トイレに入ると、
便座に座ってスマホを操作する。

メッセージは入っていない。


【おはよう。そしてお誕生日、おめでとう】


メッセージとお祝いのスタンプを送ると
すぐにつく既読。

それが和也くんの寂しさを伝えてくるように思えた。


【おはようございます。
そしてお祝いもありがとうございます】

でもそれをメッセージで伝える事はなく、
無難な文章が返ってくる。


互いの寂しさを共有できてても
その寂しさを埋めることができなかった。

きっと一番にお祝いしてほしいのは潤だ。

でも昨日も残業だって言ってたし、
今日は俺と外せない会議がある。


潤は和也くんの誕生日を覚えてるんだろうか?


忘れていなくったってお祝いしなきゃ、
忘れていると一緒なんだ。

雅紀の誕生日も年末で忙しいと言って
お祝いをしてこなかった。


人々が賑わうクリスマスイブなのに……


雅紀がどんな気持ちで
過ごしていたなんて考えても、
あの日には戻る事も出来ないし、
ましてややり直しなんて出来ない。


でもさ……思うんだ。

一人でも誕生日を覚えていれくれて、
お祝いしてくれる人がいれば
少しは気持ちが違うんじゃないかって。


俺は再びスタンプを押すと水を流してトイレを出た。


テーブルには完成した朝食が並べられ、
雅紀は椅子に座っていた。

「ごめん、待たせて」

「ううん、今出来たところだから。
じゃあ……食べよっか?」

パチンと手を合わせる雅紀を見て
俺も同じように手を合わす。

「「いただきます」」

パクッとスクランブルエッグを口に運ぶと、
ほんのりと甘い味が広がる。


変わらない雅紀の料理の味と
それを久しぶりに食べても覚えている俺。


「美味しい」

「そう?なら、良かった」

俺を見てニコッと微笑むと、
パクパクと朝食を食べ進める。

それ以上、会話はなかったけど……

昨日までなかった
温かくて幸せな空間がここにはあった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ