
素晴らしき世界
第31章 向かい合わせ
ゆっくりと瞼を開けると、
久しぶりに目にした天井の模様。
そして寝返りや身体の痛みではなく、
自然の目覚めも久しぶり。
でも昨日感じていた温もりはすでになくて、
シーツに手を滑らしても冷たかった。
全てがまるで幻だったみたい。
ベッドから起き上がり寝室を出ると、
いつもと違う光景と音と香り。
キッチンに立っている雅紀の姿。
何かを炒めるような音。
テーブルに並んだおかずの匂い。
「おは…よ」
言い慣れない言葉を
戸惑いながら雅紀の背中に投げ掛けた。
「おは…よ」
振り返った雅紀も
戸惑いながら挨拶に応えてくれる。
ぎこちなくても……
一方通行じゃないやり取りが
俺にとっては嬉しかった。
「ご飯作ったんだけど……食べない?」
今度は俺に言葉を投げかけてくれたけど、
雅紀の瞳は不安げに揺れていた。
その訳が……今の俺にはわかる。
俺は雅紀の作った朝食を『いらない』と
拒否した過去が何度もある。
その過去は俺が例え改心したって、
雅紀の心の傷として残っている。
「うん、食べる。ありがとう」
その傷を消す事はできないけど……
俺は精一杯の笑顔で答えた。
「じゃあ、仕上げるね」
パッと体勢を戻してしまったから、
雅紀がどんな表情をしているかわからない。
でも声は弾んでいた気がした。
「何か……手伝おっか?」
手持ち無沙汰に出来もしない事を言ってしまう。
「いいよ。もうすぐできるから座ってて」
雅紀はテキパキと朝食の準備を進める。
当たり前のように思えてくるこの光景。
そして違和感が無くなっていく
言葉のキャッチボールに勘違いしそうになる。
本当に俺たちは別れるのか?
昨日離婚届を書いたテーブルに
残したままだったスマホ。
画面をタップすると日付は『6月17日』
「ごめん、トイレ行ってくる」
「うん、わかった」
スマホを持って雅紀から離れた。
久しぶりに目にした天井の模様。
そして寝返りや身体の痛みではなく、
自然の目覚めも久しぶり。
でも昨日感じていた温もりはすでになくて、
シーツに手を滑らしても冷たかった。
全てがまるで幻だったみたい。
ベッドから起き上がり寝室を出ると、
いつもと違う光景と音と香り。
キッチンに立っている雅紀の姿。
何かを炒めるような音。
テーブルに並んだおかずの匂い。
「おは…よ」
言い慣れない言葉を
戸惑いながら雅紀の背中に投げ掛けた。
「おは…よ」
振り返った雅紀も
戸惑いながら挨拶に応えてくれる。
ぎこちなくても……
一方通行じゃないやり取りが
俺にとっては嬉しかった。
「ご飯作ったんだけど……食べない?」
今度は俺に言葉を投げかけてくれたけど、
雅紀の瞳は不安げに揺れていた。
その訳が……今の俺にはわかる。
俺は雅紀の作った朝食を『いらない』と
拒否した過去が何度もある。
その過去は俺が例え改心したって、
雅紀の心の傷として残っている。
「うん、食べる。ありがとう」
その傷を消す事はできないけど……
俺は精一杯の笑顔で答えた。
「じゃあ、仕上げるね」
パッと体勢を戻してしまったから、
雅紀がどんな表情をしているかわからない。
でも声は弾んでいた気がした。
「何か……手伝おっか?」
手持ち無沙汰に出来もしない事を言ってしまう。
「いいよ。もうすぐできるから座ってて」
雅紀はテキパキと朝食の準備を進める。
当たり前のように思えてくるこの光景。
そして違和感が無くなっていく
言葉のキャッチボールに勘違いしそうになる。
本当に俺たちは別れるのか?
昨日離婚届を書いたテーブルに
残したままだったスマホ。
画面をタップすると日付は『6月17日』
「ごめん、トイレ行ってくる」
「うん、わかった」
スマホを持って雅紀から離れた。
