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素晴らしき世界

第31章 向かい合わせ

きっと雅紀は付き合ってから、
この優しさや温もりをずっと与えてくれていた。


でも俺は……

その事をわかっていなかった。

その事に気がついていなかった。


「雅紀…っ」

俺は雅紀の腰に手を回すと
グッと引き寄せて抱きしめた。


初めて『抱きしめたい』という衝動に駆られた。


今までは何となくだったり……

雅紀がそうして欲しいのかなって、
空気を読む感じで抱きしめていた。


ずっと、そう。



何もかもが全てが……雅紀からだった。



「雅紀…っ、雅紀」

強く、強く雅紀を抱きしめる。


そこには和也くんの時に感じた違和感はない。


俺の腕は雅紀の身体を覚えていた。

いや、雅紀の身体しか覚えていない。


雅紀も……そうだったのか?


いや、そうに違いない。



だって雅紀はずっと俺の事を好きでいてくれた。


そして雅紀は俺にいつでも真っ直ぐだった。



俺はちゃんとそれに向き合っていたのか?


その答えは……『ノー』だ。


なら俺は、最低じゃないのか?


雅紀の告白にオッケーをしたのに、
俺は何度も浮気をした。

悪びれもなく女を何度も抱いた。


雅紀にバレてない事をいい事に……


雅紀を初めて抱いてから
浮気をして女を抱くことは無くなった。

女にはない気持ちよさを知って、
都合のいい時に抱くようになった。


雅紀が拒否しない事をいい事に……


そして家にかかってくるようになった
結婚や孫の顔が見たいという両親からの催促。

聞き流すのも面倒くさいなって思っていた時、
俺は雅紀と入籍して結婚した。


雅紀がプロポーズしてくれた事をいい事に……


もしそれに……雅紀が気がついていたら?

もしそれを……雅紀がわかっていたら?


もしそれが……雅紀を傷つけていたら?


「ごめん、雅紀……ごめん、ごめん…っ」

ちっぽけな謝罪の言葉。

でもそれを繰り返すことしか出来なかった。

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