
(仮)執事物語
第9章 STEP×STEP〔※杜若〕
小学生の頃までは、放課後にはお邸にしょっちゅう遊びに行っていたけれど、中学や高校に入ってからは、殆ど行かなくなった。
それは、父の配達について回らなくなったのも、理由の一つだ。
「まぁ、莉玖なんかは基本的に馬の世話だから、変わんないよなぁ」
マコ兄はそう言うと、缶コーヒーを一口含む。
「そうね。私自体も乗馬のレッスンの時くらいしか、莉玖が働いている姿は見ていないけど、このまんまな気がするわ」
そう言って綾芽先輩が微笑んだ。あたしは、知らない莉玖の一面が聞けるのかと思って期待していたので、少しだけ残念に思ったけれど、あたしの知らない莉玖は居ないんだと思って、安心した。
「お兄ちゃんは、ちゃんとビシっとしてる……かな?」
綾芽先輩は微笑みを浮かべたまま、そう言ってマコ兄をチラっと見る。するとマコ兄は照れたように笑いながら、頭を掻いた。
「マコ兄、鼻の下伸びてるよ?」
あたしが、そう突っ込むと『うるせぇ』と言って、照れ隠しにあたしの頭をグシャグシャと撫でるマコ兄。
「きゃー!! 止めてっ!髪がぐちゃぐちゃになっちゃう~!!」
「ばぁか。もっと可愛くしてやってんだろ?」
そうやってマコ兄とじゃれ合っていると、莉玖がツカツカとやって来て、あたしの腕を掴んで歩き出した。
