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(仮)執事物語

第9章 STEP×STEP〔※杜若〕


今だって、歩き出さないあたしに、直ぐに気が付いてくれて、手を差し伸べてくれた。

ちゃんと本当の気持ちを伝えてくれた。それなのに、何を不安になる必要があるんだろう。

いつだって莉玖はあたしの事を考えてくれてるのに。

「あたしの方こそ、ごめんね? 勝手に莉玖はあたしの事をそんなに好きじゃないのかも……なんて思っちゃって」

「何でそんな風に思うんだ?」

「だって……莉玖、キスとかしてくれないし……」

あたしが思い切ってそう言うと、莉玖はあたふたし始める。

「それは……えっと……その……」

落ち着かない様子で、視線を宙に彷徨わせる莉玖。それが何か可笑しくて、あたしの口元に笑みが浮かぶ。

フッと笑いを漏らしたあたしの顔を見て、莉玖はホッとした様に微笑んだ。

今日のところは、その狼狽え振りと笑顔に免じてこの辺で許してあげよう。

友達は付き合い初めて、直ぐにキスやエッチしちゃったりしているけれども。

あたし達はあたし達の速さでゆっくり付き合っていけばいいんだよね?

「ほら、莉玖? 行こう? マコ兄達と逸れちゃうよ?」

あたしがそう言って莉玖の手を引きながら歩き出すと、彼は笑ってそれに合わせて歩き出す。

相変わらず、あたしの歩調に合わせて。同じ速さで。

この時のあたしは、自分の気持ちばかりで、莉玖がどんな風に想っていたかなんて、知りもしなかった。

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