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(仮)執事物語

第9章 STEP×STEP〔※杜若〕


だって、初めて莉玖に抱き締められてるっ!!

いつもと違った莉玖の大胆な行動にあたしの胸はバクバクと激しく高鳴った。


今日こそは……。

ひょっとしたら……?

期待してもいいのかな?

一歩、先に進めるのかな?


期待に膨らむ胸。

そんなあたしの気持ちを余所に、莉玖はあたしから身体を離すと、『そんなんじゃない』と綾芽先輩に言って歩き出す。

置いてきぼりにされたあたしは身動きが出来ず、立ち止まっていると、莉玖が振り返って手を差し出した。

「ん……」

あたしがのろのろとその手を掴むと、ギュッと力強く握られる。その手は温かくて少しだけホッとした。

照れ屋な莉玖が、手を繋いで歩いてくれる事だけでも、喜ぶべき事なのに。あたしの心は沈んだままだ。

それはきっと、さっきの綾芽先輩の『ヤキモチ?』と言う言葉に対し、莉玖が『そんなんじゃない』と答えたからだと思う。

沈んだ心は、あたしの足取りを重くさせる。そんなあたしの歩く速度に合わせてくれる莉玖。

結果、先を歩くマコ兄と綾芽先輩との距離が開いてしまった。

「どした?」

そう言ってあたしの顔を莉玖が覗き込む。その目は心配そうにあたしを見つめている。

申し訳ないと思いながらも、沈んだ心は中々浮上してくれない。

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