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(仮)執事物語

第9章 STEP×STEP〔※杜若〕


「見ていて楽しかったわ。私もお父さんとお母さんを取り合って騒いでいた事なんかを思い出しちゃった」

そう言って微笑む綾芽先輩。それが切なくて胸が少し痛む。言い合いをしたくても、先輩のご両親はもうこの世には居らっしゃらない。

「やだ、ミーちゃん? そんな顔をしないで?」

綾芽先輩は私の頬を両手で包むと、にこりと笑った。その笑顔に吸い込まれそうになる。

すっごい美人と言うわけではないけれど、女の子であるあたしがドキドキしちゃうような、言葉では言い表せない魅力に惹きつけられる。

綾芽先輩がお邸の人に大事にされるのは、旦那様のお孫さんだからだけではない。

先輩自身の魅力にもあると思うんだよね。あたしもそうなれるかな?なりたいな。

どのくらい綾芽先輩の笑顔に見惚れていたんだろう。あたしは莉玖の声でハッと吾に返った。

「綾芽、駄目。ミーのほっぺたは俺の」

そう言うと莉玖はあたしの手を握って自分の方へと引き寄せる。あたしの身体は綾芽先輩から離れ、莉玖の腕の中へすっぽりと収まってしまった。

「あら? 莉玖、それはヤキモチなの?」

綾芽先輩は『ふふふ』と笑いながら莉玖を見てそう言うと、莉玖の体温が少しだけ上がった気がした。

って言うか、あたしの体温も上がってます!

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