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DAYS

第32章 オールリクエストshort story♡






何がそうさせたのか。


俺の目には、その人だけが映った。

他の何も入ってこなかった。

流れがスローモーションになって、
ゆっくりと時が進んでいる感覚に陥る。



「あのー…。」
「あ。

すいません。ぼーっとしてて…。」
「いえ、大丈夫ですよ。」


ふにゃっと、柔らかい顔で笑った。

心臓がぎゅーっと締め付けられる。


恋だと自覚するには、十分だった。


「お1人でしたら、カウンターで
よろしいですか?」
「あ、はい。」


嘘だ。
俺はカウンターがどの席より苦手だ。

だって、必ず店員と目が合うんだから。

小さい店なら尚更だ。


だけど、それももう嫌じゃない。

むしろ好きになった。


だって、この人がいるから。


落ち着いた店の雰囲気と、
目の前にいるこの人の雰囲気は
妙に合っていて、居心地がいい。


「注文、決まりました?」
「あ、まだです。

おすすめとかって、あります?」
「ハンバーグ、とか?

美味しいんです。
雅紀の作るハンバーグは。」


そういうと、カウンターの奥にいる
もう1人の店員に話しかけてる。


「そうです。俺の作るハンバーグ、
美味しいですよ?」
「自分で言うなよ。」
「え、今、大ちゃんが言ったんじゃん!」


大ちゃん…かぁ。

それだけじゃ、本当の名前は分からない。


「じゃあ、ハンバーグで。」
「かしこまりました。
すぐに用意しますね。」


そう言って、店の奥へと消えていった。


外を見れば、まだ雨は止みそうにない。

それがすごく嬉しかった。

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