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未知夢

第14章 滝繁

 繁はその様子を眺めながら、同じように涙を流した。


 そこにいるのも同じ繁。気持ちはすべてわかっていた。片や居酒屋チェーン店の社長。片や職を失ったフリーター。


 そんな格差に嫉妬しない訳がない。左遷、解雇、失業。そればかりが付きまとう。決して手を抜いたりはしていない。だが、何をどう頑張ってもすべて裏目に出てしまう。そんなイライラ、ストレスが一気に森屋に向けて放出された。


 床に踞って泣く繁の手から、ソッと果物ナイフを取り上げた。


 繁はその柄をしっかりと握る。そして、カウンターの上に置いた。


「た……滝………さん」


 森屋が自分をさん付けで呼んだ。高校以来のことで少々驚いた。


「俺は……親父への当て付けで妹である綾子を汚してしまった。お陰で綾子は世間マスコミから遊び人と見られ、ファンも離れて行った。だが、最後までファンでいてくれた滝さんに、綾子を紹介したかった」



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