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未知夢

第12章 好機

「そんな……私……」


「訴えてやんな。あいつは怖いもん知らずだから、ちょっとは痛い目合わさなきゃ」


 繁はそう言って柵にもたれかけた。


「でも、お腹の子はどうすればいいのか……」


「それは知らねぇ。森屋の子だろ!? いらないなら堕胎すればいいじゃん」


 そう言った瞬間に、自分は酷いことを言ってると思った。


 自分が最低の男だってこともわかった。


 だが、もっと最低なのは誰だ。


 絶望と怒りが自分の理性を砕いている。明らかに嫌な人間になりつつあるのが自分でもわかっていた。


「だって……私と結婚しようって言ってたのに……」


 綾子は膝をついて号泣する。まだ膨らんでいないお腹を擦りながら声を張り上げて泣き崩れる。


 隆夫が綾子に近寄って言った。


「綾子……落ち着いて。まず、落ち着いてから話し合おう。おい、あんたあんまりだよ! 他に言い方があるだろ」


(ねえよ!! あったら、そっちを言うよ)と、繁は思った。



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