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凍夜

第5章 渇望



マンションのエントランスで土屋の車を待った。

ガラス張りのドアの向こう、人々が体を屈めるようにして電車を待っていた。
風が強いのか雪が横殴りに降っている。

土屋の車は、向かってきた電車と交差するように私の前方へと滑り込んできた。

土屋の車は、黒のクラウンだ。

私は素早く助手席に乗り込んだ。

「社長!今夜はユキさんの変わりですね?」

土屋は、矢継ぎ早にそう言った。

私はバッグからファンデーションのケースを取り出すと開いた。

「変わりなんて言わないでよ。まるでぼったくりだわ。」

私はつけまつげが取れかけてないか確認すると瞬きをした。

「なんて言おうかしら……?」

私が鏡を覗きこんだら、土屋は口元のよく手入れが行き届いた髭を撫でながら、「大丈夫でしょう?社長なら!まぁ確かに異例ですけどね。」と、ハハハと笑った。

「土屋ったら、簡単に言うのね。」私が軽く睨みつけると「まぁ、そう言わず!それにしてもユキさんはどうしたんですかねぇ……?」と真面目な顔をした。

「ユキの事、なんかわかったら直ぐにメールしてよ?直ぐよ?」私は念を押すように言った。

「な―んかワケアリですね……。了解しました。ラインの方がいいですかね?」

「どちらでもいいわ……。」

私は力なく頷いてみせた。

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