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凍夜

第5章 渇望


「リナ?」

マサシの言葉に思わず胸が高鳴った。

私は「うん。」とだけ言って電話を切った。

言葉が止まらなくなりそうだったからわざと、そうした。

今の私には余韻は要らないと思った。

《まずは、今夜をなんとか乗りきらなければならない。》

玄関のドアを開け、中に入ると窓から雪明かりが青白く私の足元を照らした。

私はストーブのスイッチを入れると急いで服を脱いだ。

ドレッサーの前で小首を傾げ、昨夜の情事のアトをコンシーラーで消した。

クローゼットから、フォックスファーが首にあしらわれた黒いコートを取り出し、光沢のあるミニワンピースに袖を通し、電話をかけた。

「もしもし?土屋?お疲れ様……。仕度できたからいつでも……。」

私がそう言うと土屋は、「お疲れ様です。社長。了解しました。今出ます。知っての通りだと思いますがユキさん連絡取れません。」と現実的な答えを返してきた。

〈わかってるから〉と私は電話を切った。

私は重いため息を一つ漏らすと腰を上げた。

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