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凍夜

第5章 渇望


一週間前のユキの髪の毛の感触が、私の手にリアルに浮かび上がってきた。

あの、艶やかで柔らかな髪の毛を私はこの手で撫でたのだ。

「五ヶ月なんだ!」
と泣き崩れた、あのユキの声が耳の奥でこだました。


《ユキはいったい……?》


私とマサシが外に出た時、駐車場に停めてあったマサシの車を雪が白く染めていた。

マサシは無言で、助手席のドアを開け私を乗せた。エンジンをかけるとエアコンの温度を高くしてスノーブラシを持って、外に立った。

車内はかなり冷え込んでいて、私は体を縮めながらマサシがブラシで雪を払うのをじっと見ていた。

助手席の窓の雪をブラシが、なぞったときマサシの奇妙に真面目な視線が私へと注がれた。

お互い見つめあった後、マサシは目だけでちょっと笑い、「もうちょっと待ってて。」
と窓越しに言った。

息が白かった。

私は、今すぐにでも、車の外に飛び出して、マサシの首に抱きつきたい衝動にかられたが、それを必死で抑えた。


《もう、あの頃の私達じゃない……?》

自分で選んできた道じゃないか。

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