
凍夜
第5章 渇望
「なんで、お母様、僕らの連絡先を知っているんですか?」
マサシがそう尋ねると、ユキのママは、虚ろな目をして私とマサシを見つめた。
「もし、関係ない方だったらごめんなさい。ユキの手帳があったの。マサシさん、リナさん、一番多く予定が書き込まれていたの。あの子は、なんにも話してくれなかったから……。」
渡されて、ヴィトンのシステム手帳を開くと、ユキの字で、電話番号、アドレス、予定が記されていた。
多分、携帯を紛失した時の事を考えてバックアップも兼ねての事だったんだろう。
几帳面なユキらしかった。
「あのね、娘の由美子さんも、連絡が取れなくなっているんだ。君たち、これから時間とれる?」
《由美子まで……!》
私は、事態の重さに改めて気づかされた。
頭の中が混乱していた。
でも……。
「私はこれから予定が詰まっていますので後日にして頂けますか?」
私は、サックリそう答えた。
「あ、俺もです。」
マサシも答えた。
……21時には、向かわなければならない。
こんな時でも、自分の用事を放り出す訳にはいかない。
「それじゃあ明日にでもお願いしますね?連絡します。」
警官が、そう言って軽く会釈した。
私とマサシは、ユキの部屋から出た。
ドアが閉まる時、ユキのママがすすり泣くような声を上げた。
