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凍夜

第5章 渇望


私は、自分がマサシの車になったところを想像していた。


マサシに、握られるハンドルで揺さぶられるハート。

踏まれるアクセルで喜び、ブレーキに泣き、例え傷つけられてもマサシは、絶対ハンドルを離さない。

まるでマサシの瞳のように優しいヘッドライトに照らされる道を、共に一緒に目に映して走るひとときを、私はきっと夢見ていたに違いない。

そう、あの頃は……。

《何もかもが、本当に……。》



車は、ユキの住む市営住宅の前で止まった。

エンジンが切れた時、私の妖しい妄想はプツッと音をたててかき消され、やましい気分に火がついたように、顔が火照った。

私は顔に手を添え、車から降りた。

駐車場に、ユキの車はなかった。

変わりにミニパトが、1台停まっていた。中は無人だった。


私とマサシは、階段を昇りユキの住む部屋に向かった。

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