
凍夜
第5章 渇望
~「リナ、待たせてごめんね。顔まだ痛む?」
アリストの運転席のドアが開くとマサシが覗きこんできた。
私は助手席のシートに深く沈んでいた。
私たちは先程、追突事故にあったのだ。
「取り敢えず、サツはヤバいから示談で済んでよかったよ。」
マサシがホッとしたように、運転席に腰をおろした。
私たちは、飲酒をしていたので警察の世話になるわけにはいかなかったのだ。
車の後ろのバンパーが、軽くへこんだだけで乗車には差し支えなかった。
私のぶつけた頬も今はなんともなかった。
「ごめんね。リナ。」
マサシの手が私の頬をまた撫でた。
私は軽く目を閉じて「大丈夫。」と答えた。
車は、下手稲通りを進み、八軒に入っていた。
ユキの住む市営住宅はすぐ近くだった。
