
凍夜
第5章 渇望
そこで由美子は、ハッとしたように思い出すと、追われていた男の落とし物をポケットから出してパパに手渡した。
パパは笑顔で、その包み紙を開き中を覗きこんでから、急に神妙な表情を浮かべた。
「このことママには内緒だぞ。」
と、また言った。
その時、由美子は何かがひらめくのを感じた。
パパの秘密とは、ひょっとしたらこの落とし物と一緒かもしれないと。
「何で?」
一応訊いてみたが、パパはその落とし物をズボンのポケットにしまいこみ、「何ででも。」と薄ら笑いを浮かべるだけで、真相はつかめなかった。
それから由美子は、パパとカラオケ屋に入った。
沢山歌って、色々飲んだ。
「楽しいね?」
由美子が、パパに声をかけると、パパは足を貧乏揺すりしながら、タバコをふかし、何やら落ち着かない様子に見えた。
「もっと楽しいことあるよ。」
パパの目が妖しく光った。
