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【S】―エス―01

第36章 決行

 入り口から差すわずかな光を背に揺らめく茶色い瞳を向け、表情を綻ばせる刹那。それを見て瞬矢は目を丸くし、すうっと細めた。


「お前、本当に……」


 『本当に変わった』言いかけたその言葉は、発することなくぐっと溜飲し押し留めた。


 刹那は照れ隠しにふいっと顔を背け、ひらり手を振る。


「じゃ、気をつけて」


「ああ。お前もな」


 「何かあったら連絡を」その言葉をかわきりに、ぱしゃ――と背中合わせとなった両者の足元の水が跳ねた。


 背後に刹那の逆方向へ遠ざかってゆく気配を感じながら、自身もまた右側の通路へ駆ける。


 懐中電灯だけが道を照らす暗い通路は、まるで先の見えないこれからを暗示しているようだった。


 暗闇を照らす一閃の明かりと長い通路に、瞬矢は2年前の出来事を思い出す。


 それは、彼女も同じだったのだろう。不意に後ろを駆けていた茜が手を取り引く。


「瞬矢……」


 ぽつり呟いた彼女はゆっくり歩みを止め、それにつられるかの如く瞬矢も次第に歩調を弱め立ち止まる。


「なんか、2年前に似てるよね。ついて来たけど……力になれるかなんて、正直分からない。でも――!」
 

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