
【S】―エス―01
第29章 S‐145
午後3時09分。バスでハイデルベルクを経由し、ネッカーシュタイナハという渓谷沿いの小さな街へ。
立ち並ぶ家々を彩る赤煉瓦(れんが)の屋根が目にも眩い。すると目の前を、恐らく街の住民だろう50代くらいの男が通りかかる。
城の場所を訊ねるとその男は4つの城のうち森の中、岩壁に貼りつくようにして聳(そび)えるひとつの城を指差す。
向かって左側の森から突き出た円柱形の塔が特徴的な、こじんまりとした古城だ。
シャーデック城……別称『つばめの巣』。
「実はな――」
更にはしたり顔である伝説を語り始めた。
シャーデック城の伝説――それは、昔、この城の城主と親睦にあった対岸の城主が娘であるローゼと政略結婚をさせようとし、将来を悲観した娘ローゼは、ここシャーデックの城壁から身を投げた――というものである。
現在、この城に持ち主はおらず、廃墟となっているらしい。なので、城まで誰でも容易に近づけるとのこと。
だが、男の話はそれだけに留まらなかった。
「しかも、だ。噂じゃあ、夜になると誰もいないはずの城にぽつり……とな、オレンジ色の光が見えたりするのさ」
立ち並ぶ家々を彩る赤煉瓦(れんが)の屋根が目にも眩い。すると目の前を、恐らく街の住民だろう50代くらいの男が通りかかる。
城の場所を訊ねるとその男は4つの城のうち森の中、岩壁に貼りつくようにして聳(そび)えるひとつの城を指差す。
向かって左側の森から突き出た円柱形の塔が特徴的な、こじんまりとした古城だ。
シャーデック城……別称『つばめの巣』。
「実はな――」
更にはしたり顔である伝説を語り始めた。
シャーデック城の伝説――それは、昔、この城の城主と親睦にあった対岸の城主が娘であるローゼと政略結婚をさせようとし、将来を悲観した娘ローゼは、ここシャーデックの城壁から身を投げた――というものである。
現在、この城に持ち主はおらず、廃墟となっているらしい。なので、城まで誰でも容易に近づけるとのこと。
だが、男の話はそれだけに留まらなかった。
「しかも、だ。噂じゃあ、夜になると誰もいないはずの城にぽつり……とな、オレンジ色の光が見えたりするのさ」
