
【S】―エス―01
第29章 S‐145
◇2
それは、さる5月初旬のこと。
「いいけど、こんなの調べて何に使うんだ?」
体だけはパソコンに向かい、鈍い光を取り込む小さな窓の外を見やる刹那にそう訊いてきたのは、『櫻井 陸』。
ここは彼が住まうアパートの一室だ。
かつてまだ名前など得なかった頃、刹那が自身の片割れと共有した名前。それと同じ『陸(りく)』という名を有する青年だ。
2人は、刹那が以前いた屋敷の火事によりあぶれた末に行き着いた施設で出会い、もうかれこれ10年来のつき合いになる。
「全部、壊してあげるのさ」
窓の外に視線を送ったまま、にぃ、と口角をつり上げ刹那は答える。彼はパソコン画面へ向き直り、眼鏡の奥の切れ長な目を伏せ、ふっと失笑し軽く肩を竦めた。
「君らしいね」
その言動から窺い知るに、別段訝る様子もない。むしろ、質問に対する刹那の返答をある程度予見していたのではないかとさえ思われる。
慣れた手つきでカーソルを操作し何やら入力すると、タンッ、と軽快にエンターキーを叩いた。
それは、さる5月初旬のこと。
「いいけど、こんなの調べて何に使うんだ?」
体だけはパソコンに向かい、鈍い光を取り込む小さな窓の外を見やる刹那にそう訊いてきたのは、『櫻井 陸』。
ここは彼が住まうアパートの一室だ。
かつてまだ名前など得なかった頃、刹那が自身の片割れと共有した名前。それと同じ『陸(りく)』という名を有する青年だ。
2人は、刹那が以前いた屋敷の火事によりあぶれた末に行き着いた施設で出会い、もうかれこれ10年来のつき合いになる。
「全部、壊してあげるのさ」
窓の外に視線を送ったまま、にぃ、と口角をつり上げ刹那は答える。彼はパソコン画面へ向き直り、眼鏡の奥の切れ長な目を伏せ、ふっと失笑し軽く肩を竦めた。
「君らしいね」
その言動から窺い知るに、別段訝る様子もない。むしろ、質問に対する刹那の返答をある程度予見していたのではないかとさえ思われる。
慣れた手つきでカーソルを操作し何やら入力すると、タンッ、と軽快にエンターキーを叩いた。
