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【S】―エス―01

第23章 覚醒

 目の前の光景に言葉を失う。隣にいたはずの瞬矢が自分を押しのけ庇い覆い被さっていたのだ。


 向かって右の背中に破片が突き刺さり、傷口から溢れる鮮血が赤黒くコートを濡らし染めていた。


 「なんで?」そう訊ねる声が、あからさまな動揺を表し震える。すると意外にも彼は苦悶で引きつった表情に薄い笑みを浮かべ答えた。


「大切な奴……の、たった1人も護れなくてどうする」


 紺色を湛えた黒い瞳の奥には、小さくも確固たる信念に満ちた輝きが……茜がずっと見てきた『斎藤 瞬矢』としての姿があった。


 その瞳に、茜はほんの一瞬だが奇妙な懐かしさを覚え、よぎった可能性によもやと目を見開く。


 またひとつ展開されたガラス片が空を切り、ざくりと小気味よい音を立てて左の背中、肩甲骨の下に突き刺さる。


「……っ! ……もう、傷つけたくない。傷つけ……させない!」
 

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