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第2章 Episode 2 痛み


携帯をポケットに仕舞い、顔を上げると丁度帰ってきた母親の珠美と目が合った。

「あら、帰ってたんか」

「うん…でも、またちょっと出てくるわ」

鈴の言葉を聞いて、珠美が驚いたように瞬(まばた)いた。


「今から!? もう遅いし、やめときや」

「でも…リンが居なくなってもうたんや…」


「リンが?」

「そや、ちゃんと戸締まりもしたのに…」


そこまで聞いた珠美は、考え込むような素振りをした後、思い当たることがあったのか「あっ」と声をあげた。



「もしかして、ウチが帰った時…」

「えっ!? おかん、家に帰ってたんか!?」



驚く鈴に珠美は頷き、話を続ける。

「忘れもん取りに帰ってな。多分、玄関を開け閉めした時に出ていったんやと思うわ」



のほほんとした様子で事情を話す珠美とは逆に、鈴は焦燥感(しょうそうかん)に駆られた表情を浮かべた。


「そんな!! なら、やっぱり探しに行かな!」

今にも飛び出しそうな鈴の肩を、珠美が掴んで制止する。



「慌てへんでも大丈夫やろ。猫は気ままやからな、好きな時に出かけて、好きな時に帰るんよ。ウチが子供の頃に飼ってた猫も1週間くらい経ってから、ひょっこり戻ってきたんやで」

諭すような珠美の言葉を聞いて、鈴の勢いが失われていく。


「明日、学校やろ? 風呂入って、ご飯食べて、ゆっくり休みや」

「……はい」

本当は納得していなかったが、母親に心配をかける訳にもいかず、渋々家の中に戻っていった。








「……リン……」

ベッドに横たわりながら、姿を消したリンを思い浮かべる。

(大丈夫…やよな? 明日になったら、無事で戻ってくるよな?)


半ば自分に言い聞かせるようにして、睡眠をとるべく鈴は瞼(まぶた)を閉じるのだった。

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