テキストサイズ

デスサイズ

第2章 Episode 2 痛み




ピリリリリ



電話の着信音が鳴り響き、直ぐに林が通話に出る。

「もしもし…」

『もしもし、菊三かい?』

聞こえてきた穏やかな老婆の声に、林はチッと苛立ちを露に舌打ちをした。


『菊三や…お願いだから帰っておいで。少し…ほんの少しだけでいいの、お父さん、最後に一目でいいからあなたの顔を見たいって…』

「うるせえな!! 親父なんかどうなったって知るかよ!! 迷惑かけないうちに、さっさとくたばれと言っておけ!!」


『何てことを言うの! あなた、お父さんにどれだけ可愛がってもらったと…』

「ガキの頃のことだろうが!! もう二度とかけてくんじゃねえぞ!!」


涙声で叫ぶ母親を無視して電話を切り、そのまま携帯の電源も切った。


「くそったれが!!」

頭をガリガリと掻きむしり、テーブルに顔を突っ伏す。

(うう…千加子(ちかこ)……会いたいよ…)



林 千加子。



5年間連れ添った、現在は別居中の妻。

3年前くらいから態度が冷たくなり、半年前に「しばらく会いたくない」と置き手紙を残して、家から出ていった。

妻のことは心から愛している林は、何度も電話やメールを送っているが、千加子から返答は何も無く、そのことが一層、彼を苛立だせていた。



(どいつもこいつも人の気を知らねえで、勝手なことばかり言いやがる!)



―ムカつく


―ムカつく


―ムカつく


―ムカつく



ゆっくりと林は立ち上がり、寝室へと入っていった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ