
デスサイズ
第3章 Episode3 挫折
「でも、オレはもう“ぼっち”ってのじゃないよ! 強くてカッコいい兄貴が居るからね!」
エヘン、と偉そうにのけ反る玲二に、洋介は苦笑する。
「そういえば洋介。今は何を描いてんの?」
話題を変えて、床に置かれたキャンバスを見つめる玲二。
「エッフェル塔だよ。ほら、あそこに写真があるだろ」
洋介が左足で示した方向を見やると、そこにはエッフェル塔の写真が額縁が壁際に飾られていた。
「ホントだ。この写真、どうしたの?」
「有理(ゆうり)がフランスから送ってきてくれたんだ」
「えっ」
有理という名を聞いた瞬間、玲二の顔から表情が消えた。
「アイツも絵の勉強、頑張ってるらしいよ。ボクも頑張らなきゃ」
友のことを考え、笑顔を浮かべる洋介。
だが玲二は無表情のまま立ち尽くしている。
黛 有理(まゆずみ ゆうり)。
玲二と洋介の親友であり、昔はいつも3人でつるんでいた。
今はフランスに留学中で、洋介同様、画家を目指している。
「……玲二? どうしたの、震えて」
「えっ」
言われて初めて、玲二は自分が震えていることに気づいた。
呼吸も、激しい運動をした後のように荒い。
「ご、ごめん洋介。オレ、今日は調子悪いから帰るよ!」
「えっ、大丈夫なのか」
心配そうに見つめる洋介に「大丈夫」とだけ言って、玲二は逃げるように部屋から出ていった。
「どうしたんだろう……有理のこと話した途端に、様子がおかしくなったような……」
後に残された洋介は、首を傾げるだけだった。
