
青い桜は何を願う
第7章 哀情連鎖
「…──っ」
さくらは作業していた手を止めた。
家庭科室を見回すと、まりあを始め、やはり親しい部員達が、黙々と作業台に向かっていた。
「…………」
さくらは、昼休みの一件で立ち上がれなくなって校舎の裏手でうずくまっていたところを、まりあと透に発見された。そして連れ戻されてきた。それから二人に慰められて、どうにかうわべだけでも元気にしている決心がついて、部活を再開していたはずだ。
このはと流衣のかけ合いが、遠くから聞こえる。
さくらは、そして今、条件反射的にあのソプラノに耳を傾けている内に、とても不思議な空想をしていたのではなかったか?
リーシェの護衛はカイルの他にいなかった。もとより王女に二人も護衛はいらなかったはずなのに、空想の中でもう一人、誰かが側にいてくれていたような気がする。
「さ、く、さ、くぅ」
さくらの前に、見覚えのあるムック本が出てきた。
きらびやかな写真やロゴがこれでもかと言わんばかりに散りばめてあって、女性が二人、その中央で、デコレーションケーキよろしく華やかなロリィタスタイルに身を固めて微笑んでいるそれは、お気に入りの季刊誌だ。ただし、さくらはこの季刊紙を欠かさず購読しているのに、こんな表紙は見たことがない。
「え。まりあ……これ……」
さくらはまりあの視線の先を追う。
透が、購買部で買ってきたばかりと思しき水性ペンのOPPをめくっていた。
「これ、まさか桐島先輩が?!」
「さくさくぅ。折角、あたしがお願いして、ついでに買ってきていただいたのよ。まさか、返そうだなんて考えていないでしょうねぇ?」
「──……」
「らしくない。さくさく、毎回、発売日に買ってたのに、弦祇先輩と話すようになってから、忘れていたでしょ。作業だって遅れているわけじゃないんだし、ほら、息抜き」
「…………」
さくらは椅子に座り直して、まりあと透からの贈り物の頁を開く。
裏表紙の見開きは、今回も『Fillete rose』の広告だ。
