
青い桜は何を願う
第7章 哀情連鎖
「早は昔から変わらない。人は変わっていくものだけれど、早は変わらない。早はまっすぐで、早のままだから、皆にどんなこと言われたって自分を変えないから、僕は早を信じられる」
「──……」
「好きな子が、いるんだ」
早の思考が停止した。
まるで「明日隣町に行くんだ」とでもいうような、軽い調子で打ち明けられて、頭が真っ白になった。
「吃驚した?」
何故、そんなに落ち着いていられるのだ。
空に浮かんだ雲を眺める、透の気持ちが理解出来ない。
「ね?僕だって、早に言ってなかったことがある。それで早の話だけ聞きたがるなんて、どうかしてた」
「透」
「手芸部に面白い子がいるんだ。美咲さんの友達で、名前は麻羽まりあちゃん」
何故、そんなに穏やかな目をして自分の知らない女の話をする?
早は地面に頭を打ちつけたくなる衝動に堪えて、頭から血の気が引いていく感覚に眩暈を覚えながら、ただただ透を見つめていた。
透に話をやめさせたかった。
「まっすぐなとこは早に少し似てるかな。笑っちゃうくらい正直で、いつも明るくて、すごく素直。あ、素直なとこも早に似てるね。そういう人に弱いのかな、僕。……気が付いたら目で追ってた」
「──……」
「よく話すようになったのは、昨年の今頃。麻羽ちゃんが初めてファンですって言ってくれた時は、罰ゲームかと思った。けど、後で美咲さんから聞いて……そうでもなかったんだって分かった」
「けっ、テメェらしいボケだぜ」
早は苛立っていた。虚しい。
早が独占していた透の心は、二人だけの世界は、もう取り戻せないのか。
「花の聖女」の力を以てしても、透は戻ってこないのか?
「あ、いた。透様ぁ!」
後方から耳障りな少女の声が聞こえてきた。
早が振り向くと、屋上の出入り口の扉から、まりあが顔を覗かせていた。
「今井先輩達が心配していましたよ。昼休み終わっても透様が戻ってこないって。さくさくもいなくなっちゃいましたし、急いで探しに行かなくちゃ!」
黙れ。俺の透に腕を絡めるな。
黒髪を一つに結った小柄な少女の透に無邪気にじゃれつく姿が、とてつもなく憎らしい。
早はこの忌まわしい風景を、粉々に壊したかった。
「また後で。早、生徒会頑張って」
早の大好きな透の声が、遠くに聞こえた。
