
青い桜は何を願う
第7章 哀情連鎖
「テメェに何が出来るってんだ」
悩みを口にしたとして、透は解決してくれるというのか。
透を動かすものが責任感や同情だけなら、何もしないでいてもらいたい。
早は、透の両手をしかと掴まえて、その身体を引っ張った。
透がバランスを崩した。早の胸板に、その上体がぶつかってきた。
「あ、ごめ……早?」
顔を上げた透の額にキスをした。
早はスキンシップが苦手だ。自分のなよなよした行動に、寒気がする。
透だけだ。昔から、手を繋いでは柔らかいと言って笑ったり、寒いからと言って寄り添ってきた。この素直な友人は、昔から突っ張ったところがまるきりなかった。
二人、物心ついた頃は周囲の誰もに親友同士と認められていた。だのに、年を重ねるごとに、住む世界が違っていった。
早は、所詮、どれだけ親しい人間同士も個々の個体でしかないのだと、何度も思い知らされてきた。
早は失ったものを取り戻したくて、聖花隊に入った。
どんな奇跡も思いのままに与えてくれるという「花の聖女」なら、早との仲を修復してくれる気がした。
世のパートナー達が互いを想い合う気持ちにも優る。それくらい、早は透を愛していた。
早は桜の匂いが混じった風に吹かれて、数年振りに、透を抱き締めていた。
「透は……良いダチにいっぱい出逢った」
「早だってそうじゃない」
「…──っ、俺は」
言いかけて、やめた。
透がいれば誰もいらなかった、とは言えないからだ。
恋人家族も友人も、違うのは形であって、重みは同じだ。
現に、透は正常だから、誰にでも優しく誰にでも素直だ。
早は透だけを必要としている。教師や警官達が言うように、やはりクズというものなのだろう。
それでも、世界に一人でも狂おしいほど大切な他人に巡り逢えた現実は、誰にも興味を持てないで死んでゆく人間より幸せなものだと、誰か肯定してくれまいか?
「早……」
早の耳に、透の柔らかな声が触れてきた。
「ごめん。早のこと、大事。大好き。君はずっと一緒にいて、気を遣わないで何でも言い合える友達だ」
「何だ、いきなり」
「でも、いくら何でもお節介だよね。僕は」
「分かれば、良──」
