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青い桜は何を願う

第7章 哀情連鎖


 このはは、赤の他人の少女達が恨めしくなる。どう見ても、いじめられているのはこのは達の方ではないか。

「貴女達ねぇっ」

 このはは真淵を突き放す。

 さっきから聞こえてるよ、と注意すべく息を吸い直す。

 だが、まともに目が合った瞬間、少女達は逃げていった。 

* * * * * * * *

 さくらはひよりと百合子が戻ってくると、彼女らの会話から心当たりのある噂話を耳に挟んで、家庭科室を飛び出した。そして、廊下で予想した通りの顔触れを確認するなり、今度こそ胸の奥が冷えきっていった。

「このは先輩」

「さくらちゃん!」

 もう一度自惚れてみたい、恋してみたいと願っていた。
 さくらは、胸裏では、怖れながらもこのはを信じてみたかったのだ。

 だが、さくらの前方で、このはの右手と流衣の左手が、あまりに自然に繋がっていた。

 このははさくらを見つめてくれている。
 さくらもこのはしか見えない。

 だが、このはの隣には、いつだって流衣がいたではないか。

 三日前に初めて言葉を交わしたさくらとは違う。流衣は学園の誰もに慕われていて、何よりこのはとずっと一緒に過ごしてきた。

 さくらは、このはに流衣を差し置いてまで、選んでもらえるだけの理由を持ち合わせていない。

 昨夜さくらは、このはと彼女の知人との間柄を誤解した。知人がこのはの一番の人なのではないかと勘ぐって、悲しんだ。

 あの時、このはがきっぱりと否定した本当の理由が、今分かった。

 さくらは、逃げるように廊下へ駆け出した。

「……っ、さくらちゃん!」

 後方からこのはの声が追いかけてきた。

 さくらはエレベーターに乗り込んで、階下へ向かう。

 胸にそっと手をあてて、上がった息を宥める。

 ワンピースの胸ポケットの中で、かしゃ、と、小さな音がした。このはがくれた美術展の招待券だ。

 来週の土曜は、さくらの誕生日だ。チケットはこのはに返すつもりだったのに、今度こそ顔を合わせる機会をなくした。

 さくらはチケットを引っ張り出して、どうせ行くつもりのない美術展の概要を眺める。

 今の今まで気付かなかった、思いがけない事実を知った。

「──…!」

 招待券の裏に印字してある地図に示された美術展の会場は、リーシェとカイルが約束した、桜の木のある海から徒歩五分ほどの距離にあるのだ。

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