
青い桜は何を願う
第7章 哀情連鎖
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「殺すぞこら!」
真淵が突如立ち上がるなり、卓袱台返しもといレジャーシート返しを実行した。
このはは食べかけのサンドイッチをつまんだまま、固まる。
ぴしゃっと冷たいものが飛んできた。真淵のひっくり返したレジャーシートから水筒のカップが転げ落ちて、麦茶が飛沫を上げたのだ。
このはのシフォンの膝丈フリルスカートから伸びた脚が濡らされて、ひんやりした湿り気が染み出す。
真淵は何に立腹したのか。
このはが眉を潜めていると、隣から、とてつもない殺気を感じた。
「おい」
「あぁあ?」
「何か言うことあるだろ」
流衣と真淵が、今にも決闘を始めんばかりに睨み合っていた。
「私のこのはにお前の汚い水かけただろ今」
「ぁあん?水じゃねーよ。茶だよ、茶」
「茶でも同じだ下賤野郎。このはの綺麗な脚を濡らしやがって。お前のダサい頭剃って詫びろ」
「何だとテメェやんのかこら」
「上等だ、真淵!貴様の腐った根性叩き直してやる」
流衣が真淵の胸倉を掴み、真淵が拳を固めた。
「流衣先輩っ」
このはは二人の上級生の間に割り込んでゆく。
真淵はどうなろうと知ったことではないが、流衣が怪我でもしようものなら後気味が悪い。
このはは流衣にしがみついて、真淵の拳を受け止めた。
やにわに第三者の視線を感じた。
「あれ、演劇部の方達じゃない?たまにこの辺で見るよね?」
「えっ……怖い人も?ひより知ってるの?」
「外見が怖い人は生徒会だよ。銀月先輩は知ってるでしょー。ほら、あのカッコイイ人だよ。年齢不詳の先輩も、よく一緒にいるよぉ」
「ってかあの人怖い人、いじめられてる?」
このはと流衣、真淵は、固まっていた。
通りすがりの少女ら二人は、見ると、大量の飲み物を抱えていた。中等部の手芸部員達だろうが、丸聞こえだ。随分、好き勝手に言ってくれるものだ。
「助けた方が良いかな……?でもモヒカン君も怖いし、先生呼ぶぅ?」
「私達も戻れないよね。喧嘩に巻き込まれちゃ、桐島先輩達の飲み物が台なしになっちゃう」
「やだ、怖い……」
何の恨みがあるというのだ。
