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青い桜は何を願う

第7章 哀情連鎖


* * * * * * *

「殺すぞこら!」

 真淵が突如立ち上がるなり、卓袱台返しもといレジャーシート返しを実行した。

 このはは食べかけのサンドイッチをつまんだまま、固まる。

 ぴしゃっと冷たいものが飛んできた。真淵のひっくり返したレジャーシートから水筒のカップが転げ落ちて、麦茶が飛沫を上げたのだ。

 このはのシフォンの膝丈フリルスカートから伸びた脚が濡らされて、ひんやりした湿り気が染み出す。

 真淵は何に立腹したのか。

 このはが眉を潜めていると、隣から、とてつもない殺気を感じた。

「おい」

「あぁあ?」

「何か言うことあるだろ」

 流衣と真淵が、今にも決闘を始めんばかりに睨み合っていた。

「私のこのはにお前の汚い水かけただろ今」

「ぁあん?水じゃねーよ。茶だよ、茶」

「茶でも同じだ下賤野郎。このはの綺麗な脚を濡らしやがって。お前のダサい頭剃って詫びろ」

「何だとテメェやんのかこら」

「上等だ、真淵!貴様の腐った根性叩き直してやる」

 流衣が真淵の胸倉を掴み、真淵が拳を固めた。

「流衣先輩っ」

 このはは二人の上級生の間に割り込んでゆく。

 真淵はどうなろうと知ったことではないが、流衣が怪我でもしようものなら後気味が悪い。

 このはは流衣にしがみついて、真淵の拳を受け止めた。

 やにわに第三者の視線を感じた。

「あれ、演劇部の方達じゃない?たまにこの辺で見るよね?」

「えっ……怖い人も?ひより知ってるの?」

「外見が怖い人は生徒会だよ。銀月先輩は知ってるでしょー。ほら、あのカッコイイ人だよ。年齢不詳の先輩も、よく一緒にいるよぉ」

「ってかあの人怖い人、いじめられてる?」

 このはと流衣、真淵は、固まっていた。

 通りすがりの少女ら二人は、見ると、大量の飲み物を抱えていた。中等部の手芸部員達だろうが、丸聞こえだ。随分、好き勝手に言ってくれるものだ。

「助けた方が良いかな……?でもモヒカン君も怖いし、先生呼ぶぅ?」

「私達も戻れないよね。喧嘩に巻き込まれちゃ、桐島先輩達の飲み物が台なしになっちゃう」

「やだ、怖い……」

 何の恨みがあるというのだ。

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