
青い桜は何を願う
第7章 哀情連鎖
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このはは昼休みの開始を告げるチャイムが鳴るなり荷物をまとめて、慣れ親しんだ教室を飛び出した。
今朝はぼろ雑巾状態だったが、遅刻はしても午前の稽古で色んなものを洗い流せたし、流衣が側にいてくれた。
このはは調子を取り戻していた。
莢には、さっき今朝のことを気にするなとメールを送った。
善満が何か仕掛けてきたとする。莢も、わだかまりがあっては、このはを呼びにくいだろうと思ったからだ。
メールを送って一時間は経ったから、莢から返事があるかも知れない。
このはは携帯電話を開いた。
一件の新着メールが届いていたが、莢からではなかった。
『このは先輩へ。
今朝はごめんなさい。気持ちの整理をつけたいので、今日はお昼伺えません』
ほんの少し残っていた期待が絶たれた。
だが、このはには、さくらからおとなしく離れられない事情がある。
このはは、家庭科室と踊り場を繋ぐ廊下の隅で、ランチをとろうと決めていた。陰ながらさくらの側にいるにはもってこいの場所だ。
まさか、こんなにも早く敵に出くわそうとは思わなかった。
このはは先客の姿を見た途端、条件反射的に引き返したくなった。
モヒカン頭のチンピラが、家庭科室の扉の側に、レジャーシートを広げていたのだ。その膝に、日の丸弁当が置いてあった。
このはは、真淵の鋭い眼光に負けじと睨み返す。そして、そっぽを向いた彼の斜め向かいを陣取った。
地べたに座って、トートバックから弁当を取り出す。
おむすびを包んでいたサランラップをめくると、冷えきった古代米の塊から、仄かなコクのある匂いが昇った。
真淵との奇妙なランチタイムが始まって、流衣が来たのはまもなくのことだ。
このはは真淵の、こんな所を張り込むほどの「花の聖女」への執着を、不気味に感じていた。
「隣、良い?」
このはが返事を返すのも待たないで、流衣が隣に腰を下ろした。
流衣の弁当箱から出てきたサンドイッチは、銀月家お抱えのシェフが作ったのだろう、たった今喫茶店で運ばれてきたばかりにも見紛う、綺麗で新鮮な見目をしていた。
家庭科室の扉の向こうで、いきなり爆音が鳴り出した。
ただのパンクミュージックだった。
