
青い桜は何を願う
第7章 哀情連鎖
「やっぱり、やる時はやる、休む時は休まなくてはいけませんね!妃影先輩、透様」
まりあが製作途中の衣装を畳んで、鞄から弁当箱を引っ張り出した。今日も二人分あった。
「はい、透様。まりあは本日も、大好きな透様のお弁当を作ってきました」
「有り難う、麻羽ちゃん。悪いね、いつも。毎朝無理していない?」
「平気です。透様のことを考えながら作っていると、目が覚めちゃって……却って今日一日また元気に過ごすぞぉって、スタミナが付きます」
積極的なまりあと透の馴れ合いも、健在だ。
まりあは可愛い。そしてまっすぐだ。片手で拳を作ってみせて、無邪気に笑う親友の姿を眺めていると、さくらの胸まで温かくなる。
透に対してだけではない。まりあは誰にでも屈託ない心で接する。
さくらはまりあの無垢な魂に触れて、何度救われてきたことか。
「本当に有り難う。今度、麻羽ちゃんにお礼したいな。お菓子かアクセサリー、どっちが良い?」
「本当ですかぁっ?んじゃあ、アクセサリー下さい。ショーでもつけるし、部屋に飾って毎日眺めます!もちろん学校でもつけまーす!」
「ふふ、あまり期待しないでね?麻羽ちゃんや美咲さんみたいなセンスはないから、麻羽ちゃんは僕の実験台だ」
「またまたぁ」
さくらから、まりあと透の声が遠ざかる。物質的なものではない。ただ、別世界に感じるのだ。
二人の距離が縮まってゆけばゆくほど、嬉しい。反面、さくらは自分自身がどんどんちっぽけになってゆく気がしていた。
恋愛もろくに出来ない自分が嫌になる。
さくらは、自分が誰からも愛される資格などないのではないかと、疑心暗鬼にさえ陥る。
リーシェ・ミゼレッタはさくらとは別の少女であって、それでもやはりさくら自身だ。
美しい少年の魂を想い、身近にいながらやはり遠い存在なのかも知れないこのはを想う。
さくらは二つの本能に挟まれて、こんがらがる一方だ。
